東京高等裁判所 平成8年(行ケ)48号 判決 1998年5月28日
原告
株式会社ジャパンキャピタルテレビ(設立中の会社)
右代表者発起人代表
竹内陽一
右訴訟代理人弁護士
関哲夫
被告
郵政省自見庄三郎
右訴訟代理人弁護士
今井文雄
右指定代理人
竹村彰
外七名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 申立て
一 請求の趣旨
1 被告が平成七年一二月二〇日付け郵放総第一五号をもってした放送局開設申請拒否処分に対する異議申立棄却決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 主張
一 請求の原因
1 原告
原告は、設立中の会社(権利能力なき社団)である。
2 本件処分及び本件決定
(一) 原告は、東京における民間UHFテレビジョン放送局を開設する目的で、平成三年三月二〇日付けで被告に対し、電波法(以下「法」という。)四条の規定に基づく無線局免許(以下「本件免許」という。)申請(以下「本件申請」という。)をした。本件免許については、原告のほかに一五八社が申請し、合計一五九社の競願となった。
(二) 被告は、右一五九社の申請に対し、割り当てるチャンネルが一つしかないとの理由で、東京都で活動している主要企業と東京都など地元の公的団体の代表を発起人とする東京メトロポリタンテレビジョン株式会社(以下「訴外会社」という。)の申請を「中核のものとして扱うことがもっとも適当である」との立場から、当初からいわゆる「一本化調整」を行って、訴外会社一社に免許を与える方針を定めた。
(三) このため、被告は、訴外会社以外の全ての申請者らに対し、訴外会社に対する指定された割合による出資を認め、一部の申請者には役員も割り当てる代わりに、訴外会社以外の申請を取り下げさせるという行政指導を強力に行うこととし、東京商工会議所(以下「東商」という。)に一本化の調整を依頼し、その後、被告及び東商は右の一本化をめざして調整活動を行った。
(四) 被告は、原告に対し、平成五年一月二九日付郵放第五一号により本件申請を拒否する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。
(五) 原告は、同年三月二三日に本件処分に対し、法八三条に基づく異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をし、これに対し、被告は、平成七年一二月二〇日に郵放総第一五号をもって本件異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。
3 免許申請手続における公正手続の必要性
(一) 法令上の許認可申請手続において、申請者は、公正な手続に従って審査されるべきことを要求する権利を有する。
したがって、右の権利が侵害されたときは、たとえ、右申請が実体的に理由がないものとして拒否処分がされた場合であっても、申請者は、手続上の違法を理由として右拒否処分の取消しを求める訴えを提起することができ、裁判所は右申請の審査が公正手続に違反して行われたことを認めたときは、右申請の実体上の当否にかかわらず右拒否処分を取り消す判決をすることにより、申請人に対して適正な手続で再度申請の審査を受ける機会を与えなければならないものと解すべきである。
(二) 競願審査における公正手続履践の必要性
憲法一三条、三一条等によれば、国民の権利、自由は実体的にのみならず、手続的にも尊重されなければならないから、行政庁が国民の権利、自由の規制に係る処分をするに当たっては、法制上手続規定がなく、又は簡略なものにとどまり、具体的にいかなる手続を採用するかは行政庁の裁量に委ねているようにみえる場合においても、行政庁の裁量権には何らの制約がないものと解すべきではなく、いかなる手続を採用すべきかについては、恣意、独断ないし法の趣旨からして本来考慮に加うべからざる事項の考慮(以下「他事考慮」という。)の介入を疑われることのないような手続によって処分を行うべきであり、国民はそのような手続によって処分を受けるべき法的利益を有しているというべきである。
本件免許については、免許基準を定める法及び同法施行令の規定の表現が抽象的であり、また、その手続規定としては、被告から申請者に対する出頭及び資料提出の請求権に関する規定があるだけで、他に明文の規定はないが、公正手続の履践が要求されるべきであり、免許要件の審査手続が行政庁の恣意、独断ないし他事考慮の介入を疑うことが客観的にもっともと認められるような場合には、その処分は違法性を帯びるものと解すべきである。
4 本件処分及び本件決定の違法
(一) 本件処分の違法
本件処分は、次のとおり、本件免許審査手続において公正手続を履践しなかった瑕疵があるから違法である。
(1) 周波数割当計画を開示しなかった違法
法七条は、免許申請の審査基準を規定しており、同条三項において、放送用周波数使用計画は放送普及基本計画に定める放送系の数の目標の達成に資することとなるように、法二六条の規定により作成された表に示される割当可能な周波数のうち放送をする無線局に係るものの範囲内で、混信の防止その他電波の公平かつ能率的な利用を確保するために必要な事項を勘案して定める旨を規定している。
そして、法二六条は、郵政大臣は免許の申請等に資するため割り当てることが可能である周波数及び割り当てた周波数の現状を示す表を作成し、公衆の閲覧に供しなければならない旨を規定している。この「割り当てることが可能である周波数」とは、割当未了の周波数のうち、将来において放送用に分配することが可能な全周波数を意味するものと解すべきである。ところが、被告は、一定の地方に関する周波数の割当計画は法七条一項二号の審査のために作成されているものであって、法二六条の公開の対象にはならないとして、その公開を拒否してきたが、右の解釈は、同条の文理に反するばかりか、法の目的にもそぐわないものである上、被告が「当該地区に割り当てることのできる放送用周波数」が一つしかないとして、競願者のうち特定の一社のみに免許を与え、他社の申請を拒否する処分を行うためにも、前記の公正手続の理念に照らし、その前提として少なくとも拒否処分の対象者に対して周波数の割当計画を開示することが必須の要件となるものというべきである。しかし、被告は、本件処分をするについて、原告に対し、右計画を開示しなかったのであるから、本件処分は裁量権の濫用であって違法である。
(2) 具体的免許基準(審査基準)を開示しなかった違法
ア 本件処分の理由
被告が本件申請を拒否した理由は、本件処分に係る地区には、本件申請のほかに訴外会社の申請があるため、同地区に割り当てることのできる一般放送事業者の標準テレビジョン放送用周波数が不足するところ、右各申請について放送局の開設の根本的基準(昭和二五年電波監理委員会規則二一号。以下「根本的基準」という。)一一条の規定により、同基準三条、五条、七条ないし一〇条の規定に適合する度合いについて審査を行った結果、次のとおり、本件申請が訴外会社の申請に劣ると認めた、というにある。
a 出資予定者の具体化の度合いについて、訴外会社の申請が資本の額のうち約七〇パーセントが具体化しているのに対し、本件申請においてはそれが三パーセントであること等から事業開始までに要する資金調達の確実性が高いと考えられるほか、具体化している資本構成及び役員構成から開局後の事業遂行を見通した場合、営業面、資金面等で地元企業等からみて、訴外会社がより幅広い支援を得られると認められ、また、本件申請が演奏所として借用することを予定されている建築物が建築できない可能性があること等から根本的基準三条一項一号に規定する「事業計画実施の確実性」についての適合の度合いにおいて、訴外会社の申請が本件申請に勝ると認められる。
b 出資予定者及び役員候補者の具体化の度合い等から、根本的基準三条一項二号に規定する「法人設立の確実性」についての適合の度合いにおいて、訴外会社の申請が本件申請に勝ると認められる。
c 放送番組審議機関の構成において、本件申請については、七名のうち二名が発起人代表の関連法人社員となっており、放送番組の適正な審議を期待するという観点から、また、訴外会社の申請では、事業開始までの間の放送の受信普及対策に対する取組が具体化されている点から、根本的基準一〇条の規定する「放送の公正かつ能率的な普及に役立つこと」についての度合いにおいて、訴外会社の申請が本件申請に勝ると認められる。
(3) 内部的審査基準の不開示による恣意的審査手続の違法
複数の申請者が競願しており、いずれの申請も法七条二項所定の要件を満たしているにもかかわらず、当該地区に割り当てることのできる放送用周波数が不足するために、当該申請又は競願者の申請のうち一に免許を与え、他の申請を拒否すべき場合に、被告がいかなる審査手続をとるべきかについては、関係法令上明文の規定がない。
しかしながら、法令上明文の規定がない場合であっても、免許要件の審査手続が具体的・個別的事実の認定を基礎とする判断手続である限りにおいて、行政庁は恣意、独断ないし他事考慮の介入を疑うことが客観的にもっともと認められるような審査手続をとってはならず、もし行政庁が右のような手続によって競願者の一方を選択して免許を与え、他の者の申請を拒否した場合には、その処分は違法である。具体的にいえば、右の場合、行政庁は抽象的な法定の免許基準を具体化した内部的な審査基準を設定し、申請人に対し、これを明示してその主張と証拠の提出の機会を与えなければならないものと解すべきである。このことは、最高裁昭和五〇年五月二九日第一小法廷判決(民集二九巻五号六六二頁)の趣旨及び行政手続法五条の趣旨に照らしても明らかである。
このような見地から本件処分をみると、主文に至る理由として挙げられた前記aないしcについては、審査手続の過程において、原告は、被告からこのような審査基準が存在するとの説明は一切受けておらず、また、原告が免許を受けるためにはいかなる要件の具備が必要かの教示を再三求めたのに、郵政省の担当者はこれに一切応えなかったものであって、原告にとっては全くの不意打ちであった。
被告は、平成四年二月二八日の段階で、訴外会社を「中核のもの」として競願をこれに一本化する方針を示したほか、郵政省電波管理局長の経歴を有する鴨光一郎を早々に訴外会社の専務取締役に送り込んだ。郵政省は、当初から大新聞のほかマスコミ各分野を中心とする大企業に呼びかけて、形式的に免許申請をさせた上で訴外会社に一本化し、これらの大企業にはかなりの株式や役員を割り当てるとともに他の申請者には名目的にわずかな株式を配分することによって、これらの者を事実上締め出す方針を決めていたものであり、このことは、被告と訴外会社の当初からの癒着関係を示すもので、実体的裁量統制基準である「動機の不正」ないし「平等原則違反」に当たり、前記判例理論及び行政手続法に照らし、このような審査手続は著しく不公正かつ恣意的であるから、本件処分は違法である。
(4) 一本化行政指導の強行の違法
被告は、本件免許申請の取扱いについて、多数の申請者について何ら実質審査をしないまま、特定の一社を当初から「中核のもの」と言明し、一方的に一本化案を作成し、訴外会社を除く全申請者に対して、右案の受諾及び申請の取下げを迫ったが、これは行政指導として行き過ぎたもので違法である。被告の株式配分案においては、株式配分の対象者の中に他の申請者のダミーが多数混じっていた。被告は、原告に対しては、公正な株式割当の希望を持たせながら、平成四年四月には0.05パーセントという低率の株式割当てを提示し、その後同年一一月に0.1パーセントと訂正し、同年一二月三日の調整会議では原案どおり了承するように強引に迫り、原告の反対にもかかわらず、訴外会社に予備免許を与える方針を表明したものであって、到底公正な手続とはいえないことが明らかである。
(5) 原告に対する公正競争の機会賦与の拒否の違法
被告は、当初から訴外会社を「中核のもの」と位置づけ、他の申請者を強引にこの方針に一本化して、訴外会社に免許を与える方針を定め、これを公表し、一本化へ向けての露骨な、無理を言わせぬ極めて不公正な行政指導を続行し、最終段階に至り、原告のみがこれに応じないとみるや、形の上だけ二社の競願体制としたものである。被告がこのような方針をとらず、当初から原告と訴外会社を対等に扱って審査する方針をとっていれば、原告の傘下にも他の有力な企業が多数参集した可能性があり、公正に競争することができたものであるから、被告の右のような方針により、原告は、対等、公正な競争の機会を意図的に奪われたものである。
(6) 公正手続履践の事実の立証責任
被告が本件申請において、公正手続を履践したか否かについて、原告側から疑義が提起された以上、被告側においてその事実関係を明確にする義務があるものと解すべきである。
(二) 本件決定の違法
(1) 本件処分は、前記のとおり違法であるから、これを適法であるとして、本件異議申立てを棄却した本件決定も違法である。
(2) また、本件異議申立ての審理手続(聴聞手続)は、電波監理審議会が、行ったものであるが、同審議会は、郵政大臣が本件免許について訴外会社に予備免許を与え、原告の本件申請を拒否するについて、郵政大臣から諮問を受け、これに同意を与えたものであって、右審理手続は右の同意と表裏一体をなす処分に対する異議申立てについての決定のための手続であるから、同審議会は予断と偏見をもってこれに当たったものといわなければならず、その性格上第三者的な立場からする公正な審理とは到底いうことができない。したがって、右審理手続は手続法的に不公正といわざるを得ない。
しかも、右審理手続は、同審議会自体が行ったものではなく、処分庁の職員を審理官に任命して行われたものであるが、審理官は、処分庁の指揮監督下にある郵政事務官であるから、本件の利害関係人といってよく、中立・公正性を欠いていたものである上、右審理手続の過程においても、原告が本件処分手続の不公正な実態を立証するためにした証人申請を一切認めようとせず、却下するなど処分庁側に偏向した手続指揮をした。
5 よって、原告は、被告に対し、本件決定の取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の(一)の事実は認める。
3 同(二)のうち、被告が当初から「一本化調整」を行って、訴外会社一社に免許を与える方針を定めていたことは否認するが、その余の事実は認める。
4 同(三)のうち、被告が、東商に一本化調整の協力を依頼したことは認めるが、その余の事実は否認する。
同(四)、(五)の事実は認める。
5 同3、4は争う。
三 被告の主張
1 本件処分に至るまでの経過
(一) 東京都を放送対象区域とする一般放送事業者の標準テレビジョン放送局については、平成三年一月三〇日に放送普及基本計画及び放送用周波数使用計画を変更し、同年三月三〇日までの間において免許申請を受け付けたところ、一五九社から本件免許の申請があった。
(二) 被告は、平成四年二月二八日に開催された申請者調整会議において、一本化調整を行うことについての提案を行い、原告を含む全申請者の同意を得て、一本化調整を開始したところ、同年一二月三日に開催された申請者打合せ会議で提案された最終調整案に原告が反対したため、一本化調整は不調に終わったが、同年一二月二五日までの間に原告と訴外会社を除く一五七社は申請を取り下げた。
(三) 被告は、原告と訴外会社の申請について個別に審査したところ、いずれも法七条二項一号ないし三号及び根本的基準三条一項、五条、七条から一〇条までの規定に概ね適合するものと認められたが、割当てが可能である周波数が一波であるため、根本的基準の各条項に適合する度合いについての比較審査を行った。
(四) その結果、訴外会社の申請が原告の申請に勝ると認め、平成五年一月二九日訴外会社の申請に対しては予備免許を与え、原告の本件申請に対しては免許を拒否することについて、電波監理審議会に諮問した。
(五) 電波監理審議会は、平成五年一月二九日付けで右諮問が適当である旨答申した。そこで、被告は、同日、訴外会社の申請に対しては予備免許を与え、原告の本件申請に対しては免許を拒否することとし、その旨各申請者に通知した。
2 競願審査における公正手続履践の必要性の主張について
法七条二項は、放送局の免許の基準として、法第三章に定める技術的基準に適合すること(一号)、郵政大臣が定める放送用周波数使用計画に基づき、周波数の使用が可能であること(二号)、当該業務を維持するに足りる財政的基盤があること(三号)及び根本的基準に合致すること(四号)を定めており、複数の申請がこれらの審査基準を満たしているにもかかわらず、割り当てることのできる周波数が不足する場合については、根本的基準一一条が「(同基準の)第三条から第一〇条までの各条項に適合する度合いから見て最も公共の福祉に寄与するものが優先するものとする」として、比較審査基準の実施及び比較の基準を明らかにしている。
そして、放送局の免許処分又は免許拒否処分をするに当たっては、法令の根拠及びそれに定める審査基準等に従い、電波監理審議会への諮問という手続を経て行うことにより、処分の客観的な適正妥当と公正を担保しているのである。本件処分も、右のような審査基準に従い、申請者から提出された申請書を基に客観的な判断と公正な手続により行ったものであり、原告が主張するような「行政庁の恣意、独断ないし他事考慮の介入」が入る余地はない。
被告は、原告に対しては、一の周波数の割当てに対し、二の申請がなされていることから、事前に競願処理(比較審査)となることがありうることを伝え、申請書の修正の機会も与え、また、本件処分についてはその理由を具体的に付記したものであって、手続的にも何ら問題はない。
3 周波数割当計画を開示しなかった違法の主張について
法二六条で規定する周波数の公開については、郵政大臣は、日本周波数表及び周波数割当原則を作成し、閲覧に供しており、放送普及基本計画及び放送用周波数使用計画は、昭和六三年一〇月一日郵政省告示第六六〇号及び同第六六一号として制定、公示されている。放送局の免許申請の審査に当たって周波数の割当が可能であるか否かを判断する基準となるのは、右の放送用周波数使用計画であり、右計画は、放送普及基本計画に定める放送系の数の目標の達成に資することとなるように、放送用割当可能周波数の範囲内で、混信の防止その他電波の公平かつ能率的な利用を確保するために必要な事項を勘案して定めるものとされ、また、放送普及基本計画は、放送用割当可能周波数、放送に関する技術の発達及び需要の動向、地域の自然的経済的文化的諸事情その他の事情を勘案して定めるものとされているから、放送用周波数使用計画は、放送用割当可能周波数のすべて、あるいは「割当未了の周波数のうち、将来において放送用に分配することが可能な全周波数」を意味するものではない。
4 具体的免許基準(内部的審査基準)の不開示の違法の主張について
根本的基進一一条による比較審査は、複数の免許申請がいずれも同基準の各条項で定める審査基準に適合している場合、これらの各条項への適合の度合いについて各申請の具体的内容を相互に比較して、各申請の間に何らかの相対的な優劣をつける必要があり、具体的にどの点において適合の度合いに差が認められるかは個別具体的な申請の内容により異なってくるものである。原告が教示を求めたのに教示されなかったと主張する「免許を受けるために具備すべき要件」あるいは「提出すべき資料」とは、根本的基準一一条による比較審査において競願者たる訴外会社の申請に勝るための要件あるいは資料と解されるが、このようなものを教示することは、競願者との関係において審査の公正を損なうものであるから、これを教示しないことは当然のことである。
5 一本化行政指導の強行及び公正競争の機会賦与の拒否の違法の主張について
(一) 放送局の免許の申請者が多数に及んだ場合、これを一本化調整するための行政指導は従来から行われてきたが、これは、多数の放送局免許申請に対して割り当てられる周波数が一つしかない場合、これらの申請の中から一つを選んで放送事業を営もうとする多くの者を排除するより、多数の申請者が一体となることにより、地元に密着し、経営的にも確固たる基盤を持つ放送事業者として開局したほうが望ましいとの観点から、基本的には申請者全員の賛同の下に行われているものである。本件免許についても一本化調整の行政指導が行われたが、その経過は次のとおりである。
(1) 郵政省は、本件免許の申請者に対して、放送局経営のあり方(新局への参画意向等)、番組の重点及び内容、設備及び役職員規模並びに資本金等について聴取するため、平成三年五月一日付けでヒアリングの実施についての通知文書を発出し、同月一五日から翌月六日までヒアリングを実施した。原告に対するヒアリングは、同年五月一五日に郵政省放送行政局会議室において行われた。また、同局長は、申請者の主張点等をより明確にするとともに、今後における免許審査の重要な参考資料とするため、同年九月二七日に全申請者に質問書を発出し、同年一〇月三一日までに全申請者からの回答書を受理した。原告は、同年一〇月二九日付けで同局長に対して回答の文書を送付した。
(2) 本件免許について申請のあった一五九件の免許申請の処理については、平成四年二月二八日に開催された申請者調整会議において、「東京UHF民法テレビ開設のための基本的考え方について」と題する文書(以下「基本的考え方」という。)により、一本化調整を行うことについての提案を行い、原告を含む全申請者の同意を得て、一本化調整を開始したが、その際、申請の内容、発起人の構成等を総合的に勘案して審査した結果、東京都で活動している主な企業と東京都区等の地元の公的団体の代表を発起人とする「東京メトロポリタンテレビ」の申請を中核のものとして扱うこと及び地元経済界の調整については、東商の石川会頭の協力を得て行うこと、並びに新局の経営体制(案)として、資本金の額、株式配分の大枠、役員数等について説明した。
(3) 全申請者から承諾を得た「基本的考え方」の内容に基づいて、東商とも相談の上、同年四月一〇日に出資比率の第一次個別提示を行い、申請者から意見・要望等を求めた。
(4) 同年五月二〇日には出資比率の第二次個別提示に併せて、第一次個別提示の際の意見等を踏まえ、役員構成及び出資構成に関する全体の概要を文書により提示するとともに、「役員の選任については、一パーセント以上の出資予定者と打ち合せていく。」旨提案し、申請者から意見・要望等を求めた。
(5) 一本化調整は、同年一二月三日に開催された申請者打合せ会議で提案された最終調整案に原告が反対したため、不調に終わったが、この間原告に対しては、同年二月二八日に開催された申請者調整会議で同意された内容に基づき、同年四月一〇日、五月二〇日及び一一月五日の三回にわたり、東商から出資比率の個別提示を行うとともに、前二回の個別提示に際しては文書による意見の提出を求め、また、原告の出資比率を0.05パーセントから0.1パーセントに引き上げたほか、同年一〇月二八日、一一月五日及び同月一一日には東商事務局長が原告の事務所を訪ねて調整に当たった。
(二) 以上の経過に鑑みれば、一本化行政指導ないし調整に違法はなく、また、公正競争の機会賦与の機会を不当に拒否したものではなく、原告の主張はいずれも理由がない。
第三 証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
(裁判長裁判官筧康生 裁判官村田長生は転補のため、裁判官後藤博は転官のため、いずれも署名押印することができない。裁判長裁判官筧康生)